2005
10.23

ニューイングランドの地方都市・ライツヴィル、
本格推理小説ファンには忘れられない田舎町。
高名な推理小説作家にして我らが名探偵、
エラリイ・クイーン氏の愛する、calamity town。

三十一日は狂乱の一日だった。〈丘〉の家々は一日中だれが鳴らしたともわからないドアのベルで悩まされ続けた。舗道には色のチョークで恐ろしい記号が書かれた。夕方になると、いろいろの衣装をつけた奇怪な子鬼たちが、顔に絵具を塗り両腕を降りまわしながら町中をとびまわった。  
(『災厄の町』ハヤカワ文庫)

小学校の図書館から始まったクイーンの
フェア・プレイ謎解きにはまって、
父の蔵書を読み倒していた中学生の頃は、
とにかくトリック解きと犯人当てに必死でした。
新古書店で安く手に入るようになった古典ミステリの誘惑に負け、
犯人が判ってるのに今読んで楽しめるのだろうか、
と訝りながらライツヴィルを舞台とした第一作目、
懐かしい『災厄の町』を先日再読してみたら。

惨劇の舞台は三人の美しい娘を持つ、町一番の名家。
ハロウィーンの日に発見された「配達されない三通の手紙」によって予告された悲劇は、感謝祭、クリスマス、新年、聖バレンタインデー、復活祭、と華やかで楽しい祝日イベント毎に現実の物となってゆきます。

あの頃はハロウィーンなんて身近なものじゃなかったから、
重要な場面の情景も、きっと当時の私の中では
全然イメージできてなかったんだろうなあ。
謎解きに夢中になっていた中学生の頃とはまた違って、
地方都市の美しい四季の情景と豊かな暮らし、登場人物の心理等は
大人になってからの方がより楽しめるので、得した気分です。

夕食前に近所を散歩したクイーン氏は、もう一度子供にかえって、
十月三十一日のハロウィーンのわるいいたずらをやってみたくなった。  
(『災厄の町』ハヤカワ文庫)

ニューヨークっ子のエラリイのやった「わるいいたずら」って、
どんなのだったのでしょう。ペーパーぐるぐる巻きとか落書きとか?
お父さんがニューヨーク市警の警察官だから、
とんでもなく「わるい」事はできないだろうけど。
エラリイが田舎町のハロウィーンに郷愁をそそられたのは1941年、
静かな町の外からは密やかに戦争の影がしのびこんで来ています。
ライツヴィルは架空の町ですが、世界中の読者にとっても、懐かしい。

(ナルシア)

streetofH

『災厄の町』著者:エラリイ・クイーン / 訳:青田勝 / 出版社:ハヤカワミステリ文庫1977