2014
10.08

 最近は記者が軽蔑する怪談が多くて困りますが、
去る二六日の夜十時頃、両国若松町を通りかかると、
生臭い風が吹いて来て、俄に体中がぞくぞくしたと
思うと、上の方から九〇センチ余りもあろうかという
大きな顔が、目口を開いて睨んだ。恐ろしい化け物の
裾の方は、細く見えたという。確かに出会ったという
松島町の和三吉という人からの知らせでした。
 二六日の『報知新聞』にも、上野の山下で、人力車
挽きの顔を顔をペロペロと舐めたというお化けのことが
ありましたが、なんと希有な話ではありませんか。

 『東京平仮名絵入新聞』 明治八年九月二九日

『帝都妖怪新聞』湯本豪一 編 より

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江戸時代が終わり、
文明開化によって、人々は数多の怪異情報を知る時代となる。
明治時代、国内外の怪異情報が新聞によって報道されている。

「文明開化」「新聞」が新しい時代をもたらし、
そしてその文明が、江戸時代では知り得なかった
国内外の未知の怪異事件の情報を
日本国内外へと拡大させていったというのは
なかなかに興味深いことである。

    空飛び猫捕まる
    トラ猫が力んだ顔
    哀しい火の魂
    踊る怪猫を追え
    「羅生門」の鬼女
    笑う大入道
    e.t.c.

好奇心誘う、怪しげな記事満載。
新聞は、聞き慣れない『東京平仮名絵入新聞』だけでなく、
『東京朝日新聞』『大阪日日新聞』や
さらには『東京絵入新聞』『萬朝報』などさまざま。
明治時代に発行されていた新聞名チェックも面白い。

帝都妖怪新聞
編:湯本豪一
角川ソフィア文庫

(シィアル)