09.20
「あたしはね、ただ先生にまほうをかけて、先生をまどわすために学校にいってるの。」
(本文より)
舞台はニューヨーク近郊の田舎町。
転校してきたばかりで友達のいない「わたし」が、ハロウィーンの日に裏道で出会った不思議な少女は、木の上に腰掛け、魔女だと名乗った。それが、ジェニファとの付き合いのはじまり。
ハロウィーンの日には、学校で仮装コンテストがある。
ジェニファも「わたし」も、偶然「巡礼」だったのだが、「巡礼」というのが仮装になるとは知らなかった。しかも、けっこう多いらしい。日本でいえばお遍路さん?
お化けやガイコツや魔女やコウモリにはない怖さを感じる。
仮装コンテストのあと、ジェニファと一緒に回ったハロウィーンの「おふせまわり」では、巡礼衣装で病気のふりをしたジェニファがご近所の同情を引いて、かつてない量のお菓子を手に入れるというエピソードもある。
ジェニファは笑わない。
毎週土曜に「わたし」と図書館で会うときはいつもやたらたくさんの本を借りる。
決まった場所に「わたし」宛ての秘密の手紙を置く。
かと思えば、やたら古い仮装の巡礼衣装や魔女の鍋をもっている。
どうやら誰も友達はいないみたいなのに、平気な顔で学校にいるジェニファ。
それにひきかえ、「わたし」ことエリザベスは自信がなくて、はじめのうちはジェニファに盲従する。
博識で風変わりなジェニファとのわくわくする秘密がいっぱいの付き合いに、どんどん夢中になっていく。
魔女の見習いにもしてもらえて、「わたし」は大喜び。
一見かけはなれていながらどこか似ている二人は、一緒にいることで知らず知らずお互いを変えてゆく。
孤独で、いたずらが好きで、浅はかさを嫌うところ。
食べものの好みに偏りがあるところ。
だれかと、うわべだけでなく本音でつきあいたいと願っているところ。
外見はちがっても、ジェニファと「わたし」は磁石のように強く惹かれあっている。
女の子にとって、友達ってなんだろう。
ドラマや映画や小説のなかに、女の子はたくさん出てくるけど、男の子の場合とちがって、女の子どうしの友情をテーマに描いたものは、探してみると意外に少ない。
単に孤独な似たものどうしが出会って仲良くなりました、では話として成り立たないし、他の人間関係と同じく、作者が準体験をしていないと、リアルには描けない。
じつは有名な「クローディアの秘密」の作者が男性か女性か、私は知らなかった。
でも、これを読んではっきり女性だとわかった。
女性でなければ書けない物語だということが。
カニグズバーグは1930年、ニューヨークに生まれ、ペンシルバニアの田舎町で、そう、「わたし」たちの住んでいるような町で大きくなったそうだ。
ジェニファは作者カニグズバーグの幼い日々の空想の友達だったのだろうか。
もともと化学専攻だった彼女は、結婚してから1967年に相次いで本作と「クローディアの秘密」を発表した。
その2作が、その年のアメリカの児童文学賞、世界で最初にできた児童文学賞でもあるニューベリー賞を争って破れたというのだから、当時の話題のほどがうかがえる。
クローディアのように街を舞台にした冒険ものとくらべれば、確かに地味な作品なので結果は納得ゆくのだが、思わずにやっとしてつぶやいてしまう。
「ジェニファ、やるじゃない」(M) 2001年09月20日(木)
『魔女ジェニファとわたし』
著者:E・L・カニグズバーグ
訳:松永ふみ子
出版社:岩波少年文庫