2012
10.20

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こわい話が好きです。
けれど、いつも思います。
本当に怖い話ってどんな話だろう。

いかにも京極夏彦的な語り口による短編集『幽談』、
最終話の主人公は一心不乱に「こわいもの」とは
何かを突き詰めて考え抜きます。

こういうものは、驚くだろう。怖くはない。
こういうものは厭だ。とても厭だけれど、怖くはない。

私も「こわい話をして」と言われるといつも思います。
この話をするとびっくりするだろう。でも怖いだろうか。
この話は気持ち悪いけれど。怖いとは違うのかもしれない。
京極氏も常に思うのでしょう。

『幽談』は異様な話、とでもいうのでしょうか。
『夢十夜』的夢幻感や、厭な感じを、
さめているのか、執着しているのか、あの語りで。

怖くはない。
とても奇妙ではあるけれど。
この世には怖いものなど何もない──のでしょうか。
この世のものが怖くないのなら、あの世のものは。
あの世のものなど関係ないのだから、やはり怖くはない。
怖くはないけれど。

例えば。
亡くなったはずの親しい人を見かけたとしたら。
怖いだろうか。怖くはないだろう、親しかったのだから。
嬉しいだろうか。嬉しくもないだろう──

私もよく思いました。
京極氏も常に思うのでしょう。

だから、第二話「ともだち」の虚ろな寂しさが心に残ります。
(ナルシア)



『幽談』著者/京極夏彦 / 出版社:メディアファクトリー2008