2012
10.16

不気味なタイトルですが、ホラーではありません。
明晰な文体のピアニスト・青柳いづみこが
「文章で表現された音楽」を語るエッセイ集です。

12hallo-moon

なぜハロウィーンにおすすめするのか。
例えば表題の『六本指のゴルトベルク』とは、
我らがダーク・ヒーロー、ハンニバル・レクター博士。
映画『羊たちの沈黙』の凄惨な場面で、
レクター博士がうっとりと浸るバッハの
「ゴルトベルク変奏曲」の旋律が甦ってくるではありませんか。

それにしても音楽とは恐ろしいものですねえ。
ただ人の心を和ませたり楽しませたりするだけのものではない。
「音楽」とは、「演奏」とは、まさにこんな感じだなあ、と
現役演奏家も納得する音楽の文章表現は、
物語をサスペンスで満たし、多くの悲劇を引き起こします。

筆の立つ演奏家である青柳さんが、
自分たち音楽家の「業」の実情をまじえながら紹介する
物語の数々を読んでみたくなるのはもちろんですが、
文章で表現されている音楽がどんな曲かも気になる訳で、
本を片手にいちいち検索し、「ああ!この曲か!」と頷いてしまいます。

軽やかなタッチに乗せて次々と展開してゆく
文学と音楽と人間のおそろしさを秋の夜長に堪能してみては。

(ナルシア)

『六本指のゴルトベルク』
著者:青柳いづみこ
出版社:中公文庫2012